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読書メモ:暗号理論と楕円曲線ー数学的土壌の上に花開く暗号技術ー



この本は、本格的な暗号理論に関するもので、以前から理解したいと思っていた楕円曲線暗号の数学的背景について学ぶために購入しました。事前に、「暗号と認証のしくみと理論がこれ1冊でしっかりわかる教科書」や「ゼロ知識証明入門」を通して最近の暗号技術を再確認し、「群論への第一歩 集合、写像から準同型定理まで」で暗号理論に関連する群論も学んでいました。

読んだ結果、最初の30ページ程度は歴史や基礎的な内容が中心でしたが、それ以降は高度な数学的内容が続き、全く理解が及ばずに圧倒されました。ただ、自分に不足している知識をメタ認知できた点では学びがありました。以下に理解が難しかった部分をまとめます。

  1. 抽象代数学(群、環、体、加群、ベクトル空間など)の知識
    特にリソース制限のあるコンピュータでの計算(位数2の有限体等)を抽象代数学を用いて進める例題が多く、イメージできるまで理解していないと行間が全く埋まりませんでした。群を少し理解している程度では全く知識が足りないと痛感しました。
  2. 整数論の知識
    中国の剰余定理(孫子の定理)やオイラーの定理といった、高校卒業レベルを超える定理が登場します。整数論の知識が不足していると、これらの内容が理解できませんでした。
  3. 幾何学・代数
    ユークリッド幾何学やアフィン平面、アーベル多様体、リーマン面、ヤコビ多様体、ヴェイユ予想など、多くの専門的な概念が登場し、全く理解が追いつきませんでした。
  4. NP完全問題
    NP完全問題は量子コンピュータでも解けないとされ、その性質を利用した耐量子コンピュータ公開鍵暗号として注目される多変数公開鍵暗号があります。それに対して安全性や攻撃法が研究されており、グレブナ基底を利用した攻撃法などが紹介されておりました。
  5. 符号理論
    通信における誤り訂正に特化した符号理論についても、高度な内容が多く、符号理論と暗号理論を組み合わせた分野が現在注目されているようです。その一例が秘密分散で、特殊な数式を用いると、各ユーザーの秘密鍵を一定数復元可能です。こちらも最近注目のテーマだと思いますが、数学的理解には至りませんでした。
  6. 暗号プロトコルの安全性
    複数の暗号プロトコルを組み合わせた場合の安全性について、フォーマルな形式での定理化(結合定理やUC結合定理など)を扱っており、形式的な定義に慣れる必要があると感じました。

全体的に想像を絶する高度で抽象的な数学的トピックが多く、現状の自分の力では理解が難しく、時間とメンタルへの負担が大きかったです。今後は数学の専門家でなくても理解できて結城 浩さんの人気の書籍「数学ガール」シリーズなどを通して大学レベルの数学の基礎を固めながら再挑戦したいと考えています。
ひとまずは、この書籍に書かれている、さまざまな歴史的な数学者が発見した定理や方程式が暗号理論に使われていること、そのおかげで現在のIT社会が実現されていることに深く感謝したいと思います。

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