ethereum.org の翻訳ボランティアについて②
はじめに
私は、ethereum.orgで主に翻訳ボランティアとして1年ほど活動しています。
現在は、日本語翻訳のリーダーをしています。
前回はメリットを述べたので、今回はデメリットを述べたいと思います。
事前にデメリットを認識したうえで翻訳ボランティアとして活動すれば、理想と現実のギャップを埋めることが出来ると思い執筆しました。
etheruem.orgとは
ethereum.orgは、イーサリアムの概要や仕組み、開発者向けのドキュメントやツール、アプリケーションの作成方法やセキュリティの考慮事項など、さまざまな情報を提供するポータルサイトです。
小数のイーサリアム・ファウンデーションのメンバーと、多くのコントリビュータによって維持・運営されています。
翻訳ボランティアのデメリット
それでは、約一年ほどの経験を通して感じたデメリットを以下にて述べていきます。
1. 翻訳に時間がかかる
翻訳作業は、想像以上に時間がかかります。
和訳が難しい難解な専門用語が多く、コンテクスト(文脈)から和訳を考えたり、技術的背景を調査したり、考えらえれる多数の意味から最善のものを選択する等、あっという間に時間が過ぎていきます。
また、一貫性のために過去の翻訳 (TM: Translation Memory) と技術用語を合わせたりする作業もあります。
調べてもベストな翻訳が見つからず、時間ばかりが過ぎ、ストレスを感じる場合もあります (例: Weak Subjectivity など)。
ただし、必ずしも高い品質の翻訳が求められているわけではありません。
空いた時間の中で行うため、個人の努力の範囲の翻訳品質で大丈夫です。
注意)機械翻訳が完全に禁じられているわけではありませんが、単純に機械翻訳をコピペすると
人の目によるチェックの意味がありません。これは、翻訳ポリシーに違反するため、アカウントが削除される可能性があります。翻訳責任者に聞いたところ補助的に使う分には問題無いとのことです。
2. 翻訳は技術知識の獲得であり、技術経験の獲得ではない
翻訳作業を通して、イーサリアムを基盤としたWeb3の技術知識が体系的に身に付きます。
これだけ広範な知識が身につくサイトは、他にはないと私は断言できます。
一方、エンジニアマーケットで必要とさるのは経験であり、知識のみではない場合がほとんどです。
翻訳活動で定着した知識・経験を実践することで相乗効果を期待しましょう!
3. 金銭的な報酬がない(2023年3月14日現在)
コントリビュータやボランティア活動で、金銭的な見返りがあることはまれだと思いますが、
Web3プロジェクトの中には、持続可能性を実現するための人集めや、マーケティングを兼ねてトークンのエアドロップ、もしくはトークンの割り当てをコントリビュータや翻訳ボランティアに行っているところもあります。
ethereum.orgでは、現在金銭的な見返りはありません。
金銭目的で活動に参加される方は、期待外れかもしれません。
4. 翻訳が採用されない、またはリリースされない
大切な時間を使って無報酬で翻訳していただいたにも関わらず、翻訳が採用されないことがあります。
レビューアであるプロの翻訳家は、基本的にボランティアが翻訳した内容を訳し直して文章を向上させるからです。
そのまま、採用される確率はかなり低いです。ショックを受けず、翻訳された内容がより解りやすくなったと前向きにとらえましょう。
次に、翻訳してもリリースされない場合があります。
理由としては、レビューをコンテンツバケットというバケット単位でまとめて翻訳会社へ発注しているためです。
バケット内にある複数の記事を全部翻訳しないと、翻訳会社のレビューを受けることなく未完成で残り続けます。
リリースするには、バケット内の翻訳を終わらせる必要があります。個人のマンパワーだけではなく、多数の翻訳ボランティアの力が必要です。
5. 翻訳したのに消えてなくなる
Web3の技術発展は凄まじく、ethereum.orgのドキュメントは、常に更新されていきます。
翻訳した内容が、新しいドキュメントに更新されて消えてしまうことがよくあります。
その場合は、再度、翻訳し直す必要があります。振り出しに戻った感覚を受けることでしょう。
ただし、一回訳したことがある分野ならば、前回より効率的に翻訳することができます。
更新の多い文書は、技術の進化が早いものや、注目されているコンテンツが多く、人の目にも止まりやすい内容が多くなっています。
翻訳して実績をアピールできます!前向きに行きましょう。
また、消えた翻訳は、翻訳AIの血肉となって残ることでしょう!
6. 必ずしもドキュメントがWeb3の最新技術ではない
Web3界隈では、イーサリアムをもとに技術的にカスタマイズした新しいチェーンや、ロールアップなどのレイヤー2ソリューション、DeFi・DAO・NFTに関する新しいdAppなど、新進気鋭のプロジェクトが多数あります。
イーサリアムの研究開発は、イーサリアム・ファウンデーションも行っています。
それらのプロジェクト内で現在進行形でイノベーションが起きています。
イーサリアムの教育コンテンツを提供するethereum.orgでは、基準を満たしたコンテンツが掲載される仕組みになっており、最新技術が反映されるまでタイムラグがあります。
また、他のチェーンで、ethereum.orgに載っていないプロジェクトも多数あります。
最先端のプロジェクトに翻訳ボランティアやコントリビュータで携わりたい方は、ethereum.orgの翻訳活動で身に着けた知識をもとに、新しいプロジェクトに携わっていけば、スキャムプロジェクトに騙される確率を減らしたうえで、効率的に知識を身に着けることが出来ると信じています。
まとめ
ethereum.orgの翻訳ボランティアでは、上記のデメリットがあります。
事前にデメリットを認識することで、期待と現実のギャップを埋められます。
翻訳ボランティアにノルマ等一切ありません。
空いた時間にちょっとだけ翻訳するだけでも大丈夫です。
例え翻訳が掲載されなくても、活動した履歴はCrowdinのシステム上や、POAPとして残りますので完全に消えるわけではありません。
また、翻訳ボランティアに参加するとethereum.orgに、あなたのアカウント名が載ります。
中長期で活動するには、(知りたい技術の翻訳をするなど)自分にとって納得のいく翻訳活動をすることがコツとなるでしょう。
興味をお持ちになったかたは、こちらを参考にしてください。
翻訳ボランティアへの参加、お待ちしております!