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技術ブログ

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読書メモ:マスタリング・ビットコイン 第3版

はじめに


これまで『詳解ビットコイン』『プログラミング・ビットコイン』『マスタリング・ライトニングネットワーク』の3冊を読んでいたため、書籍から得られるBitcoinの基礎知識はある程度身についていると思っていました。

一方、『マスタリング・ビットコイン 第2版』は日本語版の刊行からかなり時間が経っていたこともあり、これまで読んでいませんでした。

その後、日本語版の『マスタリング・ビットコイン 第3版』が2025年12月に発売されました。Taproot、Tapscript、Schnorr署名など比較的新しいBitcoinの技術も追加されていたため気になっていたのですが、定価が5,280円とそれなりに高く、購入を見送っていました。

今回、中古で安く入手できたため、一気に読んでみました。

全体的な感想


読んでみて最初に感じたのは、Bitcoinの初学者が最初の一冊として読むには、想像以上に難しい本だということです。

Bitcoin Core、UTXO、トランザクション、Script、SegWit、Taproot、デジタル署名、P2Pネットワーク、マイニング、コンセンサスなど、Bitcoinを構成する技術が幅広く扱われています。

そのため、一つひとつの技術をこの本だけで完全に理解するというより、

「Bitcoinがどのような技術によって構成されているのかを俯瞰する」

ための本として読むのがよいように感じました。

個々の仕組みを完全に理解したければ、Bitcoin Coreのコードを読んだり、BIPを確認したり、実際にノードを動かしたりしながら別途調べる必要があります。

言い換えると、Bitcoinの「技術ポートフォリオ」を把握するためには非常によい本です。

以下、各章について簡単にまとめます。

1章 イントロダクション


Bitcoinの歴史から始まり、ウォレットの利用、アドレス、送受金などを通して「まずBitcoinを使ってみよう」という内容です。

Satoshi NakamotoによるBitcoinの登場から、Bitcoinがどのような思想や仕組みを持っているのかを大まかに把握できます。

この章は比較的初心者向けです。

2章 ビットコインの仕組み


Bitcoin全体の仕組みを、トランザクションを中心に説明しています。

Bitcoinを学び始めたときに最も違和感を覚えやすいのが、UTXOをベースとしたトランザクションだと思います。

インプット、アウトプット、おつり、コイン選択、トランザクションチェーンなどが具体例を使って説明されており、この章は非常に分かりやすく感じました。

Ethereumのようなアカウントベースのブロックチェーンに慣れている人にとっても、Bitcoinの考え方を理解する入口になりそうです。

3章 Bitcoin Core:リファレンス実装


Bitcoinの代表的な実装であるBitcoin Coreについて学びます。

ソースコードからのビルド、ノードの起動や設定、RPC APIを利用したブロックやトランザクションの確認方法などが説明されています。

単にBitcoinの仕組みを読むだけでなく、実際にBitcoin Coreを動かして挙動を確認したい場合に役立つ章です。

個人的には、この本を本格的に理解するのであれば、Bitcoin Coreをregtestを実際に動かしながら読むのがよいと思いました。

4章 鍵とアドレス


ユーザーにも直接関係する秘密鍵、公開鍵、アドレスについて扱っていますが、内容はかなり暗号学寄りです。

公開鍵暗号や楕円曲線暗号から始まり、P2PK、P2PKH、P2SH、Base58Check、Bech32、Bech32mなど、Bitcoinのアドレスや鍵表現がどのように変化してきたのかを学べます。

普段ウォレットを使っているだけでは意識しない部分まで扱われており、思った以上にディープな章でした。

5章 ウォレットの復元


ウォレット内部で鍵がどのように管理・導出されているのかを学びます。

特に重要なのが、決定論的鍵生成、BIP32によるHDウォレット、BIP39のリカバリーコード、鍵導出パスなどです。

ウォレットのバックアップというと「シードフレーズさえ保存しておけばよい」と考えがちですが、ウォレットがどのように秘密鍵やアドレスを導出しているのかを理解するうえで非常に参考になりました。

ウォレット開発をする場合にも役立ちそうな内容です。

6章 トランザクション


Bitcoinのトランザクションを、シリアライズ形式のレベルまで詳しく扱っています。

Ethereumに慣れていると、Bitcoinのトランザクション構造はかなり独特に感じます。

インプットとアウトプット、アウトポイント、sequence、witness、locktime、coinbase transaction、transaction weight、vbyteなど、多くの要素が登場します。

特にSegWitによってwitnessが導入された経緯では、transaction malleability(トランザクション展性)の問題まで扱われており、一気に難易度が上がります。

個人的には、この章はBitcoin Coreで実際のトランザクションをデコードしながらもう一度読み直したいと思いました。

7章 認可と認証


タイトルだけを見るとWebアプリケーションのログイン処理のようですが、中心となるのはBitcoin Scriptです。

P2PKH、マルチシグ、P2SH、OP_RETURN、タイムロック、MAST、Pay to Contract、scriptless multisig、Taproot、Tapscriptなど、Bitcoinで「このUTXOを誰が、どの条件で使用できるか」を表現・検証する仕組みが説明されています。

ここはEthereumとの差を強く感じる章でした。

EthereumではEVMとスマートコントラクトを中心に考えますが、BitcoinではUTXOに設定された支出条件とScriptの検証を中心に考える必要があります。

特にTaprootとTapscriptまで来ると、それ以前のP2SHやSegWitとの関係も含めて理解する必要があり、個人的には本書で最も難しい章の一つでした。

今後Bitcoinのセキュリティを深く調べるのであれば、少なくともTaproot/Tapscript周辺には慣れておきたいところです。

8章 デジタル署名


Bitcoinにおける重要な暗号技術であるデジタル署名について扱います。

署名の生成と検証、SIGHASH、Schnorr署名、ECDSA、マルチシグ、しきい値署名などが説明されています。

Bitcoinでは従来からECDSAが利用されており、TaprootではBIP340で定義されたSchnorr署名が導入されています。つまり、現在のBitcoinですべての署名がSchnorr署名に置き換わったわけではありません。

アルゴリズムを完全に理解しようとすると、楕円曲線暗号などの数学的な知識も必要になるため、この章もかなり難解でした。

ただし、TaprootがなぜSchnorr署名を採用したのか、マルチシグやしきい値署名とどのようにつながっているのかを知るには重要な章だと思います。

9章 トランザクション手数料


Bitcoinのトランザクション手数料について扱っています。

単純な手数料計算だけでなく、手数料率の推定、RBF(Replace By Fee)、CPFP(Child Pays For Parent)、package relay、transaction pinning、anchor outputなど、かなり実践的な内容まで含まれています。

内容の密度が高く、正直なところ一読しただけではあまり頭に残りませんでした。

Lightning Networkなど、未承認トランザクションや手数料市場の挙動が重要になるシステムを理解する場合には、改めて詳しく読む必要がありそうです。

10章 ビットコインネットワーク


Bitcoinの重要な構成要素であるP2Pネットワークについて説明しています。

ノードの役割、peer discovery、トランザクションやブロックの伝播、compact block relay、軽量クライアントなどが扱われています。

Bloom filterについても詳しく説明されていますが、「Bloom filterを使えばプライバシーを保護できる」という単純な話ではありません。

BIP37方式のBloom filterには、軽量クライアントが自分の関心のあるトランザクション情報をピアに漏らしやすいというプライバシー上の問題があります。

そのため本書では、BIP157/BIP158のcompact block filterについても説明されています。こちらではフィルタリングをクライアント側で行うことで、BIP37とは異なるプライバシー特性を実現しています。

ネットワーク周辺は非常に奥が深く、この章については『詳解ビットコイン』の方が理解しやすい部分もあるように感じました。

11章 ブロックチェーン


Bitcoinにおけるブロックの構造について扱っています。

ブロックヘッダー、block hash、block height、Genesis Block、Merkle Tree、ブロック同士の接続など、Bitcoinの「ブロックチェーン」そのものを理解する章です。

また、testnet、signet、regtestについても説明されています。

個人的にはこの章は比較的分かりやすく、非常に勉強になりました。

Bitcoin Coreを動かしてブロックを解析したり、regtestで実験したりする場合にも役立ちそうです。

12章 マイニングとコンセンサス


Bitcoinのマイニングとコンセンサスについて扱う章です。

マイナーは、現在のチェーン先端を基に候補ブロックを構築し、ブロックヘッダーのハッシュが難易度ターゲットを満たすようProof of Workを行います。

ブロックの最初のトランザクションとして置かれるのがcoinbase transactionで、ここでブロック補助金(block subsidy)とトランザクション手数料を受け取るためのアウトプットが作られます。

この章ではそのほか、難易度調整、Median Time Past、マイニングプール、hashrate attack、チェーン選択なども扱われています。

さらに重要なのがコンセンサスルールの変更です。

hard forkとsoft forkの違いや、Bitcoinにおいてどのようにルール変更について合意していくのかが説明されています。

ここで注意したいのは、BIPそのものがアップグレードを自動的に適用する仕組みではないという点です。

BIPは仕様や提案を記述するための文書であり、コンセンサス変更を伴うBIPの場合には、実装、ノードの採用、そして必要に応じてminer signalingなどのactivation mechanismが別途関係してきます。

Bitcoinのガバナンスを理解するうえでも非常に面白い章でした。

13章 ビットコインのセキュリティ


Bitcoinを安全に利用・実装するためのセキュリティについて扱っています。

セキュアなBitcoinシステムを作ることの難しさ、秘密鍵の保管、hardware signing device、マルチシグ、リスク分散、相続などが説明されています。

プロトコル攻撃というよりも、「Bitcoinを所有するユーザーや組織が、どのように秘密鍵を安全に管理するか」という内容が中心です。

Bitcoinでは秘密鍵を失えば資産へのアクセスそのものを失う可能性があるため、一般的なWebサービスとは異なるセキュリティ設計が必要になることがよく分かります。

14章 セカンドレイヤーアプリケーション


Bitcoinを基盤として構築される応用技術について扱っています。

Colored Coins、Single-Use Seals、Pay to Contract、Client-Side Validation、RGB、Taproot Assets、Payment Channel、HTLCなどが登場し、最後にLightning Networkへとつながります。

Lightning Networkだけを詳しく理解するというよりも、

「Bitcoinのプリミティブを組み合わせると、どのような上位プロトコルを構築できるのか」

という全体像を理解する章だと感じました。

Lightning Networkそのものを詳しく知りたい場合は、『マスタリング・ライトニングネットワーク』などを別途読んだ方がよいと思います。

付録A サトシ・ナカモト著:ビットコイン論文


Satoshi Nakamotoの「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」を日本語で読むことができます。

翻訳が非常に読みやすく、Bitcoinの基本的なアイデアが驚くほどコンパクトにまとめられていることを改めて感じました。

個人的には、『マスタリング・ビットコイン』本文の複雑な説明を読んだ後だったこともあり、むしろBitcoin論文の方がシンプルに感じられました。

もちろん、現在のBitcoinにはSegWitやTaprootなど論文発表後に追加された多くの仕組みがあるため、論文だけで現在のBitcoinを理解できるわけではありません。

それでも、Bitcoinが当初どのような問題を解決しようとして設計されたのかを理解するには非常に重要な文書だと思います。

付録B ビットコイン論文の修正まとめ


Bitcoin論文に存在する既知の問題点や用語上の違い、そして現在のBitcoinの実装と論文に記述された仕組みの違いについてまとめられています。

単純に「論文の間違いを修正した一覧」というよりも、

2008年の論文に描かれたBitcoinと、その後実際に発展したBitcoinとの違いを整理した付録

と考える方が分かりやすいと思います。

本書を読んだあとにBitcoin論文とこの付録を続けて読むと、Bitcoinが当初の設計からどのように変化してきたのかが見えてきます。

付録C ビットコイン改善提案(BIP)


EthereumのEIP(Ethereum Improvement Proposal)に相当するものが、BitcoinのBIP(Bitcoin Improvement Proposal)です。

BIPは、新しいBitcoinの機能や標準、開発プロセス、設計上の情報などを文書化するために利用されています。

本書では従来のBIPプロセスに基づき、

  • Standard / Standards Track BIP
  • Informational BIP
  • Process BIP

という分類が紹介されています。

ただし、ここは2026年現在では少し注意が必要です。

BIPプロセスはその後BIP 3によって更新され、従来の「Standards Track」という分類は原則として「Specification」に置き換えられています。

現在は大きく、

  • Specification BIP
  • Informational BIP
  • Process BIP

という分類になっています。

Bitcoinの技術史を追う場合、Bitcoin CoreのコードだけでなくBIPを確認することは非常に重要です。

「なぜこの仕様になったのか」「どのような互換性やセキュリティ上の問題が検討されたのか」といった背景を知ることができるため、Bitcoinを深く調べる際にはBIPの原文も積極的に読みたいと思いました。

まとめ


『マスタリング・ビットコイン 第3版』を読み終えた感想としては、Bitcoinをゼロから理解するための入門書というより、Bitcoinを構成する技術の全体像を整理するための技術書という印象です。

特に、

  • UTXOとトランザクション
  • Bitcoin Script
  • SegWit
  • Taproot / Tapscript
  • ECDSA / Schnorr署名
  • P2Pネットワーク
  • マイニングとコンセンサス
  • Lightning Networkなどの上位プロトコル

まで一冊で俯瞰できる点は大きな魅力です。

その反面、一つひとつのテーマは非常に深いため、読んだだけですべてを理解できる本ではありません。

むしろ、

「分からない技術を発見するための本」

として非常に価値があるように思いました。

今回読んでみて、個人的には特にトランザクション、Bitcoin Script、Taproot/Tapscript、P2Pネットワーク、マイニングとコンセンサス周辺について、Bitcoin CoreやBIPを使ってもう少し深く検証してみたいと思いました。

Bitcoinの技術をある程度知っていて、そこから全体像を整理したい人にはかなりおすすめできる一冊です。